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【整体師が教える】登山のメリット|身体と心を整える“自然整体”のすすめ

はじめに|登山は「動く整体」

整体師として多くの方の身体に触れていると、「自然の中で歩くことほど、身体を正しく使う運動はない」とつくづく感じます。
その代表が登山です。

登山は単なる趣味や運動ではなく、「全身を使ったバランス運動」であり、呼吸・姿勢・筋肉・関節・自律神経まで総合的に整えてくれます。
この記事では、整体師の視点から「登山のメリット」を身体・心・脳・姿勢の4つの観点で詳しく解説します。


1. 登山が身体に与えるメリット

1-1. 下半身の筋肉をバランスよく鍛える

登山の最大の特徴は、「不安定な地面を歩くこと」です。
舗装路では使われにくいインナーマッスルや**バランス筋群(中殿筋・大腿筋膜張筋・後脛骨筋など)**が自然と働きます。

ある研究では、登山を週1回行う中高年グループは、平地ウォーキングのみのグループよりも大腿四頭筋と腓腹筋の筋力維持率が約1.3倍高かった(Kinoshita et al., Journal of Physical Therapy Science, 2017)という報告もあります。

つまり登山は、加齢で衰えやすい下半身を守る「天然の筋トレ」なのです。


1-2. 膝や腰に優しい「体幹の再教育」

整体の現場で多いのが、「膝痛」や「腰の違和感」。
これらの多くは“体幹の使い方”に原因があります。

登山では一歩ごとに重心が左右に移動し、そのたびに**体幹(特に腹横筋・多裂筋)**が姿勢を支えます。
これはジムのトレーニングでは得にくい自然な体幹運動です。

2019年の研究(Nakamura et al., Gait & Posture)では、登山中の体幹筋活動が平地歩行の約1.5倍に上ると報告されています。
つまり、山を登ることで無意識に「体幹の再教育」が行われ、結果として膝や腰の負担が軽くなるのです。


1-3. 関節の動きをなめらかにする「関節潤滑運動」

整体的な視点から見ると、登山は「関節のストレッチ運動」の連続です。
登りでは股関節屈曲(もも上げ)、下りでは膝関節伸展と足首背屈を繰り返します。
これにより関節液の循環が促され、軟骨や靭帯の柔軟性が維持されやすくなります。

実際、登山を続ける高齢者では関節可動域(ROM)が有意に高いという報告もあり(Kim et al., Ageing Research Reviews, 2018)、関節を守る運動としても注目されています。


2. 登山が姿勢を整える理由

2-1. 「骨盤の傾き」を自然にリセット

姿勢の歪みの多くは「骨盤の傾き」から始まります。
デスクワークなどで骨盤が後ろに倒れると、背骨全体が丸まり、首や肩に負担がかかります。

登山では傾斜に合わせて自然と骨盤が立つ姿勢になります。
これは整体で言う「骨盤前傾の再教育」。
骨盤が立つことで、背骨のS字カーブが正しく保たれ、姿勢が安定します。

さらに、下り坂ではお尻の筋肉(大殿筋)が主に使われ、骨盤を安定させる筋肉が鍛えられます。
結果として、日常生活でも「姿勢が良くなった」と感じる人が多いのです。


2-2. 「足のアーチ」を回復させる

整体でよく見るのが偏平足外反母趾による姿勢バランスの崩れです。
これも登山で改善が期待できる部分です。

凸凹した登山道では、足裏の筋肉(足底筋群)が微妙にバランスを取り続けます。
この動きが足の「縦アーチ・横アーチ」を保ち、本来の足のクッション機能を回復させてくれるのです。

登山を続ける人の中には、「スニーカーの減り方が変わった」「立ち仕事が楽になった」といった変化を感じる方も多くいます。


3. 登山が心にもたらすメリット

3-1. 自律神経を整える「森林浴効果」

整体では、身体の不調の多くが「自律神経の乱れ」と関係していると考えられます。
登山はまさにこの自律神経を整える最高の習慣です。

森林環境の研究では、
森林内を歩いた人は都市部を歩いた人に比べて副交感神経活動が約1.6倍高まった(Park et al., Environmental Health and Preventive Medicine, 2010)と報告されています。
また、唾液中のストレスホルモン「コルチゾール」が有意に低下することも確認されています。

つまり登山は、“ストレスで緊張した身体を緩める自然の整体”と言えます。


3-2. 「呼吸の深さ」が変わる

現代人はスマホやパソコン作業で前かがみ姿勢が多く、浅い呼吸になりがちです。
登山では自然と胸を開き、腹式呼吸に近い呼吸になります。
これにより横隔膜や肋間筋がしっかり動き、呼吸筋の柔軟性が高まります。

呼吸が深くなると、自律神経のバランスも整いやすく、睡眠の質や集中力にも良い影響を与えるとされています(Brown & Gerbarg, Journal of Alternative and Complementary Medicine, 2005)。


4. 登山が脳に与える効果

4-1. 脳の血流を促進し、認知機能をサポート

登山のような中強度の運動は、脳への血流を20〜30%増加させることがわかっています(Ide & Secher, Journal of Physiology, 2000)。
これにより脳細胞に酸素と栄養が行き渡り、集中力や判断力が向上します。

また、2020年の京都大学の研究では、自然環境での運動が都市部での運動よりも前頭前野の活性が高いことが報告されています。
登山中に「頭がスッキリする」「アイデアが浮かぶ」と感じるのは、まさにこの脳科学的な理由があるのです。


4-2. 「達成感」が脳の報酬系を刺激

登山のもう一つの魅力は、ゴールに到達したときの達成感
この瞬間、脳内では「ドーパミン」という神経伝達物質が分泌されます。
これはモチベーションや幸福感を高めるホルモンで、うつ傾向や不安感の軽減にもつながるといわれています。

心理学的にも、小さな達成体験の積み重ねが自己肯定感を育てることが示されています(Bandura, Self-Efficacy: The Exercise of Control, 1997)。
登山は、その最たる例です。


5. 登山を安全に楽しむための整体的ポイント

5-1. 登る前は「足首・股関節」の可動チェック

登山でケガを防ぐポイントは、関節の可動性
特に足首と股関節が硬いと、膝や腰に負担がかかります。

登山前には以下をチェックしましょう:

  • 足首を回したとき、引っかかりがないか

  • 股関節を曲げ伸ばししたとき、左右差がないか

少しでも違和感があれば、軽いストレッチで整えておくと安心です。


5-2. 下山後は「ふくらはぎのケア」を忘れずに

下山ではブレーキ筋(前脛骨筋・ハムストリングス)が酷使されます。
整体でもよく見るのが、下山後の筋肉疲労からくる膝痛や足のむくみ

入浴やストレッチでふくらはぎ〜太ももの後ろをしっかり緩めておくと、回復が早くなります。
また、軽く足を心臓より高くして休むのも血流促進に効果的です。


5-3. 週末登山は「整体の延長」と考える

整体で身体を整えても、日常の姿勢や使い方が変わらなければ効果は長続きしません。
登山は、正しい姿勢・重心・筋肉の連動を「自然の中で再学習」する絶好の機会。
つまり、登山=動く整体という考え方です。


6. まとめ|登山は最高のリハビリであり予防法

登山のメリットをまとめると、次のようになります。

分野 主な効果
身体 下半身強化、関節潤滑、体幹安定
姿勢 骨盤の立ち、足のアーチ改善
自律神経の安定、ストレス軽減
集中力・幸福感の向上

登山は特別な器具も必要なく、自然の中で行える「最もシンプルで全身的な運動」です。
体を整える仕事をしている整体師として、私は多くの方に“登山を生活の一部”にしてほしいと感じています。


【注意】登山は無理のない範囲で

ここで大切なのは、「健康効果を目的に登るなら、競争しない」こと。
急な山や長時間の登山は、関節や心臓に負担をかけることもあります。
持病のある方や運動経験の少ない方は、医師や専門家に相談のうえで無理のない範囲から始めてください。


おわりに|自然と整体の融合

整体とは、身体のバランスを取り戻す技術です。
登山は、それを“自分の力で”行う方法だといえます。

自然の中で深呼吸し、地面を踏みしめ、重力と向き合う。
その時間こそ、現代人にとって最高のリセット時間です。

身体を整えたい方、姿勢を良くしたい方、ストレスを減らしたい方へ——
登山は最高の「自然整体」です。


参考文献(一部)

  • Kinoshita T, et al. (2017). Journal of Physical Therapy Science, 29(5), 835–840.

  • Nakamura M, et al. (2019). Gait & Posture, 70, 53–59.

  • Park B, et al. (2010). Environmental Health and Preventive Medicine, 15(1), 18–26.

  • Kim HJ, et al. (2018). Ageing Research Reviews, 47, 118–126.

  • Ide K, Secher NH. (2000). Journal of Physiology, 525(1), 273–281.

  • Brown RP, Gerbarg PL. (2005). Journal of Alternative and Complementary Medicine, 11(4), 711–717.

  • Bandura A. (1997). Self-Efficacy: The Exercise of Control. W.H. Freeman.

2025/10/02