今回は、日常の中でもっとも身近な運動「階段の上り下り」についてお話しします。
「階段なんて疲れるだけでしょ…」
「エレベーターがあるから使わない」
そんな方も多いかもしれません。
しかし、実は階段の上り下りには“全身のバランスを整える”という非常に大きなメリットがあるんです。
整体的な観点から見ても、姿勢・代謝・関節の安定性に良い影響を与える運動なんですよ。
この記事では、階段の上り下りがなぜ体に良いのか、その仕組みを解剖学や運動学、そして近年の研究を交えながら分かりやすく解説していきます。
整体の現場では、「運動不足からくる不調」に悩む方がとても多く見られます。
たとえば、
肩こりや腰痛が慢性化している
猫背や反り腰が改善しない
下半身がむくみやすい
寝ても疲れが取れにくい
こうした方の多くに共通しているのは、「脚の筋肉が十分に使われていない」という点です。
階段の上り下りは、まさにこの“使われにくい筋肉”をしっかり動かす全身運動。
とくに太ももの前後(大腿四頭筋・ハムストリングス)、お尻(大臀筋)、ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)などの筋肉がバランス良く働きます。
これらの筋肉は「姿勢を支える土台」。
ここが整えば、自然と肩や首の負担も軽くなり、体のバランスが良くなるというわけです。
階段の上りは、短時間で心拍数が上がる有酸素運動。
カナダのトロント大学の研究(McCartney et al., 1999)では、「階段の上り下りを週数回行うことで、有酸素能力(VO₂max)が有意に改善した」と報告されています。
また、階段を上る動作はウォーキングに比べて約2〜3倍のエネルギーを消費します。
これは「垂直方向の負荷」が大きいから。
代謝が上がりやすく、ダイエットや冷え対策にも役立つことがわかっています。
階段を上るときは、自然と上体を起こしてバランスを取る姿勢になります。
骨盤が前傾しやすく、背骨のS字カーブ(生理的弯曲)が整いやすいのです。
とくに、デスクワークで猫背になりがちな方にとっては、背筋を“無理なく伸ばせる”良いリセット運動になります。
整体で言う「抗重力筋(こうじゅうりょくきん)」の活性化につながります。
日本骨粗鬆症学会の報告(2021年)によれば、「中程度以上の負荷をかける運動は骨密度維持に有効」とされています。
階段の上りは、体重を片足で支える動作が続くため、骨に“適度な刺激”が伝わり、骨の新陳代謝(骨リモデリング)が促されます。
ウォーキングだけでは得られにくい「垂直方向の負荷」が、骨の健康にプラスに働くんですね。
一見すると「下り」は楽そうに思えますが、実は上りよりも重要な働きをしています。
階段を下るとき、足を下に着地させる際には筋肉が“ブレーキ”の役割を果たします。
この「遠心性収縮(えんしんせいしゅうしゅく)」が起こることで、関節を安定させ、転倒を防ぐためのバランス力が養われます。
京都大学の研究(Miyamoto et al., 2014)では、階段下り運動を行った高齢者グループは、筋力だけでなくバランス能力と歩行速度も改善したと報告されています。
階段を下りるときには、太ももの前(大腿四頭筋)が大きく働きます。
この筋肉がしっかり機能することで、膝関節への衝撃が吸収され、膝痛の予防につながります。
ただし、すでに膝関節に炎症がある場合は無理をせず、段差の少ない階段や手すりを使うなど調整が必要です。
ふくらはぎは“第2の心臓”とも呼ばれ、血液を心臓に戻すポンプのような役割を担っています。
階段運動によってふくらはぎの筋肉が繰り返し収縮・弛緩することで、血流が促進され、下肢のむくみや冷えの改善が期待できます。
これは、静脈還流(血液の戻り)を助ける生理的な作用によるもので、整体でも「循環が良くなる」と表現するのはこのためです。
軽い有酸素運動は、副交感神経(リラックス側)と交感神経(活動側)のバランスを整える効果があるとされています。
筑波大学の研究(Nishida et al., 2015)では、階段昇降運動を10分間行うことで、気分の改善やストレス軽減効果が確認されました。
つまり階段運動は、体だけでなく“心のバランス”にも良い影響を与えてくれるんです。
整体の現場でよく見られるのが「左右の筋肉バランスの崩れ」。
階段運動は、片脚ずつ体重を支えるため、日常生活では気づきにくい“左右のアンバランス”を自然に整える働きがあります。
右脚が苦手、左脚が苦手…という方は、階段を上り下りしているうちにその差を感じ取ることができ、体の使い方の意識が変わります。
階段を上るとき、股関節は自然にしっかりと曲がり・伸びます。
これはデスクワークで硬くなった骨盤周りの筋肉(腸腰筋・中臀筋など)にとって、非常に良い刺激になります。
特に、歩行中に骨盤が動きにくい方にとっては、階段運動が“骨盤矯正的なエクササイズ”として作用することもあります。
運動習慣のない方がいきなり何十段も上り下りするのはおすすめできません。
厚生労働省「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」によると、1日あたり10分の中強度運動を増やすだけでも健康効果があるとされています。
したがって、
通勤・通学のときに1階分だけ階段を使う
昼休みに3分間の階段上り下りをする
自宅で1日数回だけ上り下りを繰り返す
といった“ちょっとだけルール”から始めるのがおすすめです。
階段運動は手軽ですが、体の状態によっては注意が必要です。
膝や股関節に炎症・強い痛みがある
心臓・呼吸器に疾患がある
バランスを崩しやすい方、高齢者
こうした場合は、医療機関に相談のうえ、手すりを使う・段差の少ない階段で行うなど、安全な範囲で行いましょう。
背筋を伸ばして視線を少し上へ
足裏全体で段を踏む
手すりを軽く支えにする
呼吸を止めずに、リズムよく
これだけで、筋肉や関節に余計な負担をかけずに行うことができます。
階段の上り下りには、
全身の筋肉をバランス良く使う
姿勢が整う
血流が改善する
自律神経が安定する
骨密度の維持に役立つ
というように、整体的にも非常に理にかなったメリットがあります。
特別な器具もいらず、雨の日でもできる「最強のセルフメンテナンス」。
整体の施術だけでなく、こうした日常の動きの中にも“体を整えるヒント”はたくさんあります。
今日から少しだけ、エスカレーターを避けて階段を使ってみませんか?
その小さな一歩が、あなたの姿勢と健康を支える大きな一歩になります。
2025/10/09