長時間の「座りすぎ」(すなわち、日中の起きている間に座っている時間が極端に長い状態)は、肥満・2型糖尿病・心血管病・一部のがん・早期死亡リスクなど、さまざまな健康リスクと関連しています。また、完全に運動をしていても、「座る時間を減らす」こと自体が健康維持において重要であるというエビデンスが蓄積しつつあります。
そのため、日々の座る時間を意識し、「こまめに立つ・動く」工夫を取り入れることは、誰にとっても有益と言えます。
私たちは仕事や学習、移動、食事、テレビ・スマホ閲覧――多くの時間を“座っている”ことで過ごしています。特にデスクワーク、通勤、休憩時間など、「座っている」「動いていない」時間が長くなる傾向にあります。
しかし、近年の研究で、「運動しているから大丈夫」「1時間ジョギングすればOK」と思っていても、座る時間が長すぎるとそれだけで健康リスクになる可能性が指摘されています。たとえるなら、「座ること」が“新しい喫煙”のように言われることもあります。
そこで、本記事では「座りすぎによるリスク」を解説し、何をどう心がければいいかをお伝えします。なお、あくまで情報提供を目的としており、具体的な治療や診断については「専門家に確認が」必要です。
まず、「座りすぎ」「座る時間が長い」とはどういう状態かを整理します。
英語では “sedentary behaviour”(座っている・寝そべっているなど、エネルギー消費が 1.5 METs 以下の覚醒時行動)という定義があります。
多くの研究では「1日あたり7 時間以上/9 時間以上の座っている時間」が、健康リスクの上昇と関連があるとしています。たとえば、メタ解析では「日中座っている時間が9 時間以上だと死亡リスクが上昇する可能性あり」という報告があります。
ただし、個人差・測定法の差もあり、「何時間以上が絶対アウト」という厳密な境界は確定していません。ゆえに「推測ですが」目安として「1日あたり座っている時間を可能な範囲で減らす」という意識が重要です。
つまり、「長時間座る」「座ったまま動かない時間が多い」ことが“座りすぎ”の状態と言えます。
以下に、主な健康リスクとそれを裏付ける研究を整理します。
あるメタ解析(59万5千人超、死亡数2万9千を超えるデータを用いたもの)では、1時間あたりの座っている時間増加が、運動量を調整したうえで「1日7時間以上座っている人」では死亡リスクが5%/時間上昇するという報告があります。
また、別の研究では「座っている時間が長いと運動していても死亡リスク低下効果が十分でない可能性あり」というデータもあります。例えば、1時間あたり7 MET時間(エネルギー消費として)を超える座位行動は、死亡リスクと独立して関連していたとの報告。
さらに、日中の座位時間が9時間以上になると、死亡リスクが有意に上がるという分析もあります。
まとめると、長時間座っていることは、早期死亡のリスクを高める可能性があります。
座位時間が長いと、血圧・血糖値・インスリン応答などの「心血管代謝指標」に悪影響を及ぼすという実験的研究が複数あります。たとえば、1日中ずっと座っている条件と、こまめに立つ・軽く歩く条件を比較したランダム化クロスオーバー試験群では、立ち上がりを入れた方が血糖・インスリンの応答が改善するというメタ解析があります。
また、「座っている時間が長い=心血管疾患・脳卒中・心不全のリスク上昇」との大規模コホート研究報告もあります。
さらに、自宅・職場ともに座位行動が多い人は「動いている時間」が少なくなりがちで、それが追加的なリスクとなります。
要するに、座りすぎは「心臓・血管を守る」という観点からも注意が必要です。
長時間座ることで、インスリン抵抗性・血糖コントロールが悪化する可能性が指摘されています。例えば、座っている時間をこまめに中断(立つ・軽く歩く)することで、食後の血糖応答が改善したというメタ解析があります。
また、長時間のテレビ視聴・座位行動が「糖尿病」「メタボリックシンドローム」の発症リスク上昇と関連しているというレビューもあります。
つまり、長時間座ることは“ただ運動不足”というだけでなく、糖・脂質代謝の観点からも悪影響を及ぼし得ます。
研究では、長時間の座位行動が大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、前立腺がんと関連しているという報告があります。例えば「大腸がん リスク比1.24(95%CI 1.03–1.50)」というメタ解析データあり。
ただし、この分野は変数が多く、「座る時間=がん発症」の直接因果を確立するにはまだ不十分という評価もあります。たとえば「運動習慣」「体重」「食生活」「座位の種類(テレビ vs デスク作業)」などが交絡要因になりうるためです。
したがって、「がんリスク上昇の可能性あり」という認識が適切です。
座りっぱなしは、背骨・首・腰・臀部などへの負荷を増やすことがあります。長時間不動の姿勢・同じ姿勢でのPC作業やスマホ操作などにより、腰痛・首肩こり・筋力低下・柔軟性低下が起こりやすいとされています。たとえば「座位行動が多いと自己申告の健康状態が悪い」という職場研究もあります。
また、最近では「座る時間が長い ⇨ 認知機能低下」の関連を示唆する研究も報じられています(ただし専門的にはまだ初期段階)。
長時間座る/身体活動が少ないことは、うつ・不安・ストレスなど精神健康にも悪影響を及ぼすとする報告もあります。例えば、豪州の公的ヘルスサイトでは「座る時間が多いとメンタルヘルスも悪化しやすい」と指摘しています。
ただしこの分野は因果関係を明確に示す研究が少なく、「座る時間が長い ⇨ メンタル不調」なのか、「メンタル不調で動かない ⇨ 座る時間が長くなる」のか逆方向の可能性もあります。ゆえに「推測ですが」ですが、動くことで気分が上向くという身体活動一般の知見を考えれば、座りすぎを減らすことはメンタルの観点からもメリットがあると考えられます。
座りすぎがなぜリスクになるのか、簡単にメカニズムを紹介します(理屈的な説明なので、専門用語も出ますが、一般向けに噛みくだいています)。
長時間同じ姿勢(座位)を続けることで、筋肉(特に大腿四頭筋・臀筋・ふくらはぎ)があまり使われず、エネルギー消費量(代謝)が低下します。「筋肉が活動していない」時間が長いと、インスリン抵抗性が進みやすくなります。
血流も低下しがちで、特に下半身からの戻り(静脈還流)が鈍ると、糖や脂質の代謝・血管の内皮機能(血管の調子)に負荷がかかります。
座っていると、立っている・歩いている時に比べて消費されるエネルギーが少なく、脂質・血糖・血圧の制御に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、座ってばかりの状態だと「食後の血糖上昇」が大きくなるという実験結果があります。
また、長時間座っていると運動する機会も減るため、筋力低下・体重増加(特に内臓脂肪増加)・心肺機能低下などが進みやすくなります。
こうした複数の負荷が積み重なって、心血管疾患・代謝疾患・がん・早期死亡という「慢性疾患リスク」が高まると考えられています。
つまり、座って動かない時間が長いというのは「ただラクしている」という以上に、体の中で“使われない時間が長すぎて”代謝・血管・筋肉・全身のバランスに悪影響を与えるということです。
「1日何時間座ったらアウト」という明確な基準は、現時点では研究により多少ブレがありますが、以下のような指標・ヒントがあります。
ある研究では、デバイス(加速度計)で測定した座位時間で「1日9時間以上」が死亡リスク上昇のカットオフとして提案されています。
また、自己申告ベースでは「1日7時間以上」の座位時間とも。
ただし、これらは統計的な平均・傾向の話であって、個人の体質・運動習慣・体重・既往歴によってリスクは変わります。
加えて、「1時間集中して座る」よりも、「長時間連続して座る」ことが特にリスクになりやすいという報告があります。例えば「座ったまま断続なく数時間過ごす」 vs 「こまめに立って動く/少し歩く」では、後者の方が代謝指標が改善されやすいというデータあり。
というわけで、目安としては「可能な範囲で1日座っている時間を減らす」「少なくとも7〜9時間座ることを超えないように意識する」「しかも長時間連続で座らないようにする」という考え方が有効と言えます。
では、実際に「座りすぎのリスクを軽くする」ために、日常でできることをいくつか紹介します。
自分が1日どれくらい座っているか、まず記録してみましょう。仕事中・通勤中・休憩中・テレビ視聴・スマホ操作など、座っている時間をざっと数えてみると「意外と長かった」と気づけることが多いです。
「何時間座ったか」だけでなく、「連続してどれくらい座ったか」も意識しましょう。例えば「2時間以上立たずに座った」など。
座っている姿勢・環境もチェック:背もたれを使ってずっと前屈みになっていないか、足を組んでいないか、立ち上がりにくそうな状態になっていないか。これだけでも姿勢・血流的には影響があります。
「60分に1回」「30分に1回」など、タイマーを設定して立ち上がる・軽く歩く・ストレッチする時間を設けましょう。実際、メタ解析では「短い立ったり歩いたりする中断(break in sitting)」が、血糖値など代謝指標改善に関連しているという報告があります。
デスクワークの方なら、立って仕事できる高さのテーブルを使う、会議中に歩きながら話す、電話時に立つ・歩く、といった工夫も有効です。
通勤・移動時に「1駅早く降りて歩く」「エスカレーターではなく階段を使う」「立って過ごせる時間を意図的につくる」など「動く機会を増やす」を意識します。
自宅ではテレビを観る時に、座って観る時間を「立って観る」「途中で立って軽く体を伸ばす」などに切り替えることも検討できます。
仕事・家事・趣味の中に「座らずにできる」ものを取り入れましょう。たとえば、パソコン作業では立ち机活用、読書をソファではなく椅子・机で、スマホ操作を立って行うなど。
ランチ後やメール返信後など「一区切りついたら立つ/歩く」をルーティンにする。
長時間会議・映画・ゲームなど“座りっぱなし”になりやすい時間帯には、途中で「5分ストレッチ」「席を立って水を飲む」「10 分だけ歩く」を入れましょう。
家族・友人と時間を過ごす際も「ソファでずっと」が常態化しないよう、例えば「散歩しながら話す」「立ってできるゲーム・活動を取り入れる」なども考えられます。
座る時間を減らすことは有効ですが、それだけで完結するわけではありません。研究では「座る時間が長い→リスク上昇」ですが、「運動することでそのリスクの一部を軽減できる」ことも示されています。
例えば、1日30〜40分の中強度〜高強度の運動が、座位時間のリスクをある程度軽減できるという報告があります。
筋力トレーニング・ストレッチを取り入れて、座る時間による筋力低下・柔軟性低下を防ぐことも大切です。
職場・家庭で「座りたくなる環境」を見直しましょう。たとえば、会議テーブル・モニター・椅子の配置を立ち上がりやすくする、立ち作業スペースをつくる、休憩時に座らずに少し歩くスペースを確保するなど。
スマホ・タブレット・テレビ利用時間が長く「動かずに長時間座る」状況になっていないかチェック。
家族・チーム・職場で「こまめに動こう」「立ち上がろう」という文化・アラーム・リマインダーを設けるのも有効です。
たとえば、「朝起きてから就寝まで」の流れを少し書き出して、「座っている時間(通勤・デスクワーク・休憩・帰宅・テレビ・スマホ)」「どれだけ連続して座ったか」「途中動いたか」などを可視化してみると、自分の“座りグセ”が見えてきます。
例えば:
7:30 起床/朝食 → 8:30 出勤(座る/電車)
9:00〜12:00 デスク作業(座る)
12:00〜13:00 昼休み(座ってスマホ+昼食)
13:00〜17:30 デスク作業(座る)
17:30 通勤(座る)
18:30 帰宅 → 19:00 夕食 → 20:00〜22:00 テレビ・スマホ(座る)
22:30 就寝準備
この例では“座っている時間”がかなり長く、しかも「途中で立って動いた」時間が少ない可能性があります。そこを改善するために、例えば「昼休みの30分を散歩にあてる」「午後に30分だけ立って仕事できる机に切り替える」「通勤で1駅歩く」「テレビ観る前に5分だけストレッチ」などを入れてみると、座る時間/連続座位時間を減らす効果があります。
「運動していれば座っていても大丈夫」?
→「推測ですが」、運動していることは確かに健康維持に非常に重要ですが、研究では「運動をしていても、長時間座り続けることによるリスクがゼロになるわけではない」ことを指摘するものがあります。つまり「運動+座る時間を減らす」の両方を意識するのが理想です。
「立っているだけなら座っているのと同じ?」
→ややニュアンスがあります。立っているだけでも座っているより筋肉が多少働く・血流が良くなるというデータがあります。ただ、極端に言えば「立ってスマホをずっと眺めている」だけでは十分とは言えず、軽く動く・歩くという「動的な活動」の方が代謝・血流改善には強い効果を示しています。実験では「座っている時間を断続的に立つ/歩くことで代謝マーカー改善」というものがあります。
「座る時間を“0”にすれば完璧?」
→現実的には不可能ですし、立ちっぱなしも疲労・足の負担など別のリスクがあります。座る時間を“減らす”・“中断する”という意識を持つことが大切で、生活・仕事・休息とのバランスを取ることが重要です。
「すぐにリスクが出るの?」
→多くの研究は長期追跡のもの(数年〜十数年)であり、短期的に「○年で必ずこの病気になる」というわけではありません。リスク上昇は“確率が高くなる”ということ。したがって、日常の習慣を早めに見直すことが“将来の備え”になります。
以下は、あなた自身の「座りすぎリスク」を見直すための簡単なチェックリストです(自己評価用)。該当が多いほど改善余地があります。
一度に30分以上、立ち上がらずに座り続けることが多い。
1日のうち、座っている時間が7〜9時間以上ありそう。
デスクワーク・通勤・テレビ・スマホ利用など、座る時間が主な時間になっている。
休憩時間も椅子に座って過ごすことが多く、動く時間が少ない。
運動はしているが、「座っている時間」を減らす工夫は特にしていない。
夕方〜夜にかけて脚・腰・背中・首に「重だるさ」「こわばり」「張り」を感じることがある。
もし「はい」が複数あれば、座る時間・連続座位時間・動く回数(立つ・歩く)を意識的に増やすことをおすすめします。
→ 乗り越え方:立って仕事できる環境を作る/ミーティングを立ち会議にする/通勤で歩く工夫を入れる/パソコン作業の合間に「立って打てるタイム」を設ける。
→ 乗り越え方:テレビ観ながら立ってストレッチ・スマホを見る前に立ち上がる・趣味を少し身体を動かすタイプに変えてみる。
→ 解消:たとえ運動していても、座っている時間を減らすことは別の観点で重要であると理解し、「運動+動き」二軸でケアする。
→ 解消:簡単な立ち上がり・歩き・ストレッチからスタート。例えば「水を取りに行く」「トイレを遠くに」「電話を立って」など“ちょっとの動き”を習慣化する。
立ち上がり/軽い歩き/ストレッチを「タイマー」にセットする(例:30分ごとアラーム)。
家族・同僚と「立つ時間」「歩く時間」を共有・声掛けしあう。
スタンディングデスク・高さ調節机・ウォーキングミーティングなど環境を整える。
座る時間・立つ時間・歩く時間をスマホアプリや手帳で記録し、可視化する。
週末や休日も“座りグセ”にならないよう、散歩・軽い運動を日常に組み込む。
無理せず継続できる習慣(例えば「夕方10分散歩」)から始めて、少しずつ改善していく。
「長時間座ること」は、現代社会において無自覚に当たり前になりがちですが、身体(代謝・血管・筋肉)・心(メンタル)・将来(慢性疾患・死亡リスク)にとって無視できないリスクとなり得ます。
運動することはもちろん大切ですが、それだけでは“座りすぎ”のリスクを完全にはなくせないという研究も増えています。ですので、次の二つを同時に意識することがカギです:
「動く時間を増やす」
「座る時間・連続座位時間を減らす/中断させる」
ご自身の生活習慣を見直し、「今日から少しだけ立つ・歩く・ストレッチする」ことを意識してみてください。たとえ1日5分でも、「座ったまま過ごす時間を1回立ち上がることで変える」ことが、長期的には大きな差につながります。
なお、個別の健康状態・既往歴がある方は、体に負担をかけずに行動を変えるために、専門家に確認が必要です。
上記内容はあくまで「一般的な健康情報」であり、個別の診断・治療・医療アドバイスを目的とするものではありません。
座りすぎのリスクは「座る時間」だけで決まるわけではなく、運動量・体重・既往症(糖尿病・高血圧・心疾患など)・食習慣・喫煙・遺伝的背景など多くの要因が影響します。
測定法(自己申告 vs 加速度計など)や対象集団(年齢・国・性別)により、研究結果にはばらつきがあります。例えば、「デバイス測定では9 時間以上」でリスク上昇が見られた」「自己申告では7 時間以上」という報告もあります。
座ることが絶対悪というわけではなく、座ること自体が必要・避けられない場面も多くあります。重要なのは「座る時間をゼロにする」ことではなく「座る時間を減らし、かつ動く機会を増やす」ことです。
立っている・歩いているだけでも負担になる人(関節疾患・腰痛・体力低下など)がいます。そうした方は、無理せず自分の体力・体調にあわせて「少しずつ動く量を増やす」ことが重要です。
また、座っていても良い姿勢・座る環境を整えることも大切です(背筋を伸ばす・足を組まない・画面位置を適切にするなど)。座ることによる姿勢・筋肉・血流への負荷を少しでも軽くすることが補助的に役立ちます。
運動をしていても、すぐに「座りすぎだから安心」とならないように留意してください。前述のように、運動+座る時間を減らすという二軸アプローチが望ましいです。
2025/11/06