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歯ぎしり(ブリキシズム) — リスクと対策をやさしく解説

はじめに(読者へ一言)

歯ぎしり(bruxism)は「睡眠中に歯をこする/噛みしめる」「起きているときに無意識に噛んでしまう」などの行動を指します。多くの人が経験しますが、放置すると「歯がすり減る」「顎(あご)が痛くなる」「頭痛が出る」など、日常生活の質に影響することがあります。以下でリスクとエビデンス、対処法をわかりやすく説明します。必要な場面では 専門家に確認が 必要です。


歯ぎしりの基本(睡眠性と覚醒性)

  • 睡眠時ブリキシズム(sleep bruxism):寝ている間に発生する。家族や同居者が音で気づくことがある。

  • 覚醒時ブリキシズム(awake bruxism):目が覚めている間に歯を強く噛みしめたり、歯をこすったりする。ストレス時や集中時に出やすい傾向。
    国際的な定義・評価基準は専門家により整理されており、臨床的には「可能性(自己申告)」「確率(歯科所見)」「確定(ポリソムノグラフィなど計測)」のグレードで扱うことが提案されています。 


主なリスク(何が起き得るか)

以下は研究で報告・示唆されている主な影響です。重要な点には出典を付けています。

1) 歯の摩耗・修復物(差し歯・詰め物)へのダメージ

長期間の強い噛みしめ・歯ぎしりは、歯の摩耗(咬耗)や詰め物・被せ物の破損を招く可能性があります。ただし、最近の総合的なレビューでは「歯ぎしりと歯の外見的な摩耗の関連は一貫して強いとは言えない」という結果も報告されており、自己申告と機器測定で結果が異なることが指摘されています(証拠は混在)。 

2) 顎関節症(TMD:顎関節・筋肉の痛み)や顎のこわばり、開口障害

複数の研究・メタ解析で、歯ぎしりが顎関節障害(TMD)と関連することが示唆されています。特に、習慣的な歯ぎしりのある人はTMDを発症する確率が高くなる可能性があります。 

3) 頭痛・側頭部の痛み、顔面の筋疲労

顎や咀嚼筋(そしゃくきん)の過使用は、朝のこわばり感や側頭部(こめかみ)周辺の頭痛を引き起こすことがあります。TMDと関連して頭痛が出るケースは報告が多いです。 

4) 睡眠の質・日中の疲労(睡眠関連要因の混在)

睡眠時の歯ぎしりは、しばしば睡眠の断片化や覚醒と関連することがあり、結果として日中の疲労感が強くなることがあります。睡眠時無呼吸(OSA)などの睡眠呼吸障害と関連する研究もあり、近年の系統的検討では「関連の中程度の証拠」が示されています(ただし確定的ではない)。睡眠の問題が疑われる場合は睡眠専門医との相談が必要です。 

5) 精神・心理面(ストレス・不安との関連)

覚醒時ブリキシズムはストレスや不安と関連すると報告されることが多く、心理的要因がトリガーになる場合があります。逆に、歯ぎしりによる痛みや不快感が心理的負担を増やすこともあります。 


エビデンスの強さ(重要ポイント)

  • 「歯ぎしりとTMD」の関連は多数の研究で示唆されていますが、研究デザインのばらつき(自己申告 vs 計測、横断研究 vs 縦断研究)により評価の確実性は中程度〜低に分かれます。 

  • 「歯ぎしり=必ず歯が摩耗する」はわからない(証拠は混在)。デバイスでの計測がある研究と自己申告だけの研究で結果が異なるためです。 

  • 「睡眠時歯ぎしりと睡眠呼吸障害(OSA)の関係」には研究が増えており、最近のレビューは中程度の関連を報告していますが、因果を断定する段階ではありません。睡眠障害の疑いがある場合は専門家に確認が必要です。 


日常でできる対策(歯科的・行動的・生活習慣)

以下は一般向けの実践的な対策です。効果は個人差が大きいため、症状が強い・進行が疑われるときは必ず歯科医師や睡眠医に相談してください(専門家に確認が)。

1)まずは自己チェック

  • 朝、あごやこめかみがこわばっていないか?

  • 歯の欠けや詰め物の破損、歯の平坦化(摩耗)が増えていないか?

  • 横に寝ている人に「ギリギリ」「ガリガリ」と音が聞こえないか?
    →当てはまる場合は歯科受診を検討。

2)ナイトガード(マウスピース)の使用(歯科で処方)

  • 市販もありますが、歯科で作るカスタムメイドのナイトガードが一般的に推奨されます。ナイトガードは歯や修復物の直接的な物理的損傷を軽減する目的で使われます。ただし「歯ぎしり自体を完全に止める」効果は証明が限定的です。 

3)ストレス管理・心理的アプローチ

  • 覚醒時の噛みしめはストレスや集中によって誘発されやすいです。深呼吸、リラクセーション、認知行動療法(CBT)などが改善に寄与する場合があります。心理的要因が強いと考えられる時は心理療法の相談を検討してください。

4)睡眠の質を整える(睡眠障害が疑われる場合)

  • いびき・日中の強い眠気・断続的な覚醒がある場合は、睡眠時無呼吸などを含めた専門的評価が必要です。睡眠専門医と相談のうえ、治療が必要であればCPAPなどの対策が優先される場合があります。 

5)物理療法・筋肉リラクゼーション(場合によって)

  • 顎周囲の筋肉のストレッチ、温熱療法、理学療法(口腔筋のほぐし)などが一時的に症状緩和することがあります。これも個別差があるため、症状が長引く場合は専門家に確認してください。

6)薬物療法・ボトックス(限定的適用)

  • ボトックス注射が一部の症例で筋緊張を下げ、歯ぎしりやこわばりを軽減する報告がありますが、効果持続や副作用・適応はケースバイケースです。薬物療法も含め、必ず医師・歯科医師の診断・指導のもとで行ってください(専門家に確認が)。


よくある質問(Q&A)

Q1:「歯ぎしりで歯が全部なくなりますか?」
A:短期間で全部が無くなることは稀です。推測ですが、長年放置して強い歯ぎしりが続けば摩耗が進み、治療(被せ物・矯正・補綴)が必要になる可能性はあります。専門家に確認が必要です。 

Q2:「ナイトガードで治りますか?」
A:ナイトガードは歯や修復物の保護に有効ですが、歯ぎしりそのもの(筋活動)を根本的に止めるわけではないことが多いです。原因(ストレス・睡眠障害など)を同時に考えることが重要です。

Q3:「子どもの歯ぎしりは放っておいていい?」
A:子どもでは一過性の場合が多いですが、歯の摩耗や咬合(かみあわせ)異常が心配な場合は小児歯科で評価を受けてください。睡眠呼吸障害が関係することもあり、必要なら専門医受診を。 


まとめ(短く、行動しやすく)

  • 歯ぎしりは「歯がすり減る」「顎が痛い」「頭が重い」など、生活の質に影響する可能性がある行動です。放置せず、自己チェックを行い、気になる症状があれば歯科受診を検討してください。

  • ナイトガードや生活習慣(ストレス管理・睡眠改善)は有益ですが、個人差が大きく、専門家に確認が重要です。

  • 「わからない」点(たとえば個別の将来の歯の損耗の程度や、ある個人の歯ぎしりがいつ顕著に悪化するか)は、その人の具体的な状況(歯の状態・睡眠・心理状態)に依存するため、診察を受けるまで わからない ことが多いです。


【結論】

歯ぎしりは「歯や修復物の損傷」「顎関節障害(TMD)」「頭痛・筋疲労」「睡眠の質低下」などのリスクと関連する可能性がある。ナイトガードなどで歯の保護や、ストレス管理・睡眠改善を行うことは有益だが、根本的な治療や診断は専門家に確認が必要。個別の予後やリスクの大きさはケースごとに異なるため、放置は避けるべきである。

2025/11/13