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股関節が硬いと腰痛が治りにくい理由|科学的根拠に基づく改善への鍵

「腰痛で通院しているけれど、なかなか変化を感じない」 「マッサージを受けても、数日後には腰の重だるさが戻ってしまう」

もしあなたがそんな悩みを抱えているなら、注目すべきは「腰」そのものではなく、そのすぐ下にある**「股関節」**かもしれません。腰痛の改善において、股関節の柔軟性は切っても切れない関係にあります。

本記事では、股関節の硬さがなぜ腰痛を長引かせるのか、その「不都合な真実」を医学的な視点からわかりやすく解説します。


1. 股関節と腰椎の「共同作業」

私たちの体は、隣り合う関節が協力し合って動いています。これを運動学では**「ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチ」**と呼びます。

役割の違い:動く関節と支える関節

  • 股関節: 非常に大きな可動域を持ち、前後左右に大きく「動く」役割を担う関節。

  • 腰椎(腰の骨): 構造上、ひねる動作には弱く、体幹を「安定させる」役割を担う関節。

股関節が硬くなると、本来股関節が行うべき「動く」仕事を、隣にある腰椎が代わりに引き受けざるを得なくなります。これが**「代償動作(だいしょうどうさ)」**です。

本来は安定しているべき腰椎が、股関節の代わりに過剰に動かされることで、腰周辺の筋肉や関節(椎間板など)に過度な摩擦や圧迫が生じ、慢性的な腰痛へと繋がります。


2. 理由①:骨盤の傾きによる「反り腰」の発生

股関節の前面にある大きな筋肉、**「腸腰筋(ちょうようきん)」**が硬くなると、腰痛は劇的に治りにくくなります。

腸腰筋は背骨と太ももの骨を繋いでいます。ここが短縮して硬くなると、骨盤を前側にグイッと引っ張ってしまいます(骨盤の前傾)。すると、体はバランスを取るために腰を強く反らせる「反り腰」の状態になります。 反り腰は、腰椎の後ろ側にある神経や関節を常に圧迫し続けるため、筋肉をほぐすだけでは痛みの根本解決になりません。


3. 理由②:歩行時の衝撃吸収能力の低下

股関節は、歩行や階段の昇り降りにおいて、地面からの衝撃を吸収する「巨大なダンパー(緩衝材)」の役割を果たしています。

股関節が硬い人は、足が後ろに伸びる動作(伸展)が制限されます。その結果、歩くたびに衝撃が吸収されず、ダイレクトに腰へと突き抜けてしまいます。1日8,000歩歩く人であれば、毎日8,000回、腰に微細なダメージを与え続けている計算になります。


4. 理由③:お尻の筋肉(大殿筋)の機能不全

股関節が硬い状態では、お尻の大きな筋肉である「大殿筋」がうまく使えません。 最新の研究では、腰痛患者の多くに大殿筋の筋力低下や活動の遅れが見られることが報告されています。お尻の筋肉が働かないと、腰の小さな筋肉(多裂筋など)が無理をして体を支えることになり、筋肉性の腰痛を悪化させます。


専門家から見たセルフケアの注意点

「股関節を柔らかくすればいい」と言っても、無理なストレッチは禁物です。

  • 痛みを我慢しない: 強い痛みを感じるまで伸ばすと、筋肉は逆に防御反応で硬くなります。

  • 疾患の確認: 「股関節を動かすと股関節自体が痛む」「足の付け根が詰まる感じがする」という場合は、変形性股関節症などの疾患が隠れている可能性があります。その場合は、専門家に確認が必要です。


【結論】

腰痛が治りにくい本当の理由は、股関節の可動域制限によって、腰椎が過剰に動かされる「代償動作」が生じていることにあります。特に股関節前面(腸腰筋)や後面(お尻の筋肉)の柔軟性と機能が低下すると、骨盤の歪みを招き、腰への物理的ストレスが慢性化します。

【根拠】

  • 運動連鎖(Kinetic Chain): 股関節の回旋可動域の低下が腰痛発生率と相関することは、多くのアスリートや一般人を対象とした臨床研究(Roach et al., 2015など)で示されています。

  • 代償メカニズム: 股関節伸展可動域の制限が、歩行中の腰椎の過伸展(反り)を誘発し、腰椎への負荷を増大させることがバイオメカニズムの視点から確立されています。

【注意点・例外】

  • 腰痛の原因は多岐にわたり、内臓疾患や精神的ストレス、重篤な脊椎疾患が隠れている場合があります。

  • ストレッチだけで全ての腰痛が完治するわけではありません。安静時痛やしびれを伴う場合は、必ず整形外科を受診してください。

【出典】

  1. Roach, S. M., et al. (2015). Passive hip range of motion is reduced in active subjects with chronic low back pain compared to controls.

  2. Sahrmann, S. A. (2002). Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes.

  3. 日本整形外科学会「腰痛診療ガイドライン」


次の一歩として: 仰向けに寝て、片方の膝を胸に抱え込んでみてください。もう片方の足が地面から浮き上がってしまう場合は、股関節(腸腰筋)が相当硬くなっているサインです。まずは、無理のない範囲で「足の付け根を伸ばす」ことから始めてみませんか?

2026/02/05